2014年7月13日日曜日

《新华字典》 『新華字典』

阿城という作家に《孩子王》という中篇がある(邦訳『チャンピオン』徳間書店)。訳者は立間祥介

ぼくは中国語を学びたてのは学生のころ、それを読んでとても影響を受けた。こつこつ一字一字の意味を学ぶ積み重ねが大事でありすべてだという、すごくシンプルな考え方に鼓舞されたので。

一字一字、知っていくしかない。相原茂先生の『中国語の文法書』(同学社)にも、「一つ一つの語が、それしかない、かけがえのない存在なんだよ」という「叔父」のせりふがある。

下放されていた主人公に、突然小学校の教師をやるよう命令が下り、あくまで実用できる知識を教えてこそ全うな教育だという信念のもと、形式ばった無味乾燥なものをすっぱり切り捨て、こつこつ地道に勉強することが一番ためになるといって、生徒に一字一字教える。特に、主人公が持っている、村に一冊しかない《新华字典》(常用漢字が簡潔に解説されている国民的字典。文庫本より一回り小さく、京極夏彦の『魍魎の匣』の文庫版並に厚い)を誰か暗記したら、それをあげるなんていって、生徒を盛り上げるところとか。その生徒の中で、だれよりもまじめな「王福」という少年が、まったく思いがけないことに、先生に賭けを申し出、勝ったら字典をもらいたいとせがむ。


“我出赌吧。若我输了,我的东西,随便你要。” 学生们“欧”地洪起来,纷纷说要我的钢笔,要我的字典。王福听到字典,大叫一声:“老师,我要字典。” 我的字典早已成为班上的圣物,学生中有家境好一些的,已经出山去县里购买,县里竟没有,于是这本字典愈加神圣。
阿城《孩子王》

「じゃあ賭けをしようか。先生が負けたら、なんでも好きなものを取っていい。」生徒は、おー!と盛り上がり、鉛筆が欲しい、字典が欲しい、めいめい言い出した。王福は字典と聞くと、大声で「先生、僕は字典が欲しい」と言った。わたしの字典ははやくからこの班の聖なるものと化していた。家庭の状況が良いところの生徒は、山を出て町に行って字典を買おうとしたが、なんと町にもなかった。そこでこの字典の神聖さはますます増した。
阿城「子どもたちの王様」(筆者訳)

その後、王福というこの超真面目な生徒は《新华字典》をもらうことになるが、かれは拒否する。ぼくはいんちきをしたのだからと言って…。

来娣看着王福,说:“这就是王福吗?好用功,怪不得老杆儿夸你。留了许多功课吗?” 王福不好意思地说:“不是。我在抄老师的字典。”来娣低头看了,高兴地说:“妈的,这是我的字典吗!”

ライディは王福を見て言った。「あなたが王福?がんばるねえ!道理でがりがり君(主人公)が褒めてるわけだ。あいつたくさん宿題だしたんでしょう?」王福は申し訳なさそうにして言った。「違います。先生の字典を写してるところなんです」ライディはそれを覗き込むようにして見、うれしそうに言った。「まあ!これわたしの字典よ!」

がりがりクンも、かれに淡い恋心を持っているライディもそれを王福にあげるつもりなのだが、王福はあくまで受け取ることを潔しとせず、「書き写したほうが頭に残るから」と言って、毎晩一心に写し続ける。

ぼくはその小説を読み終えて、神保町の東方書店に行き、《新华字典》を買った。それからどこに行くにもそれを持ち歩き、電車の中でも読むし、寝転がるときもそれを枕にしたっけ。日本語版も出てるけど、そもそも低学年用に作ってあるらしいから、原書でも普通に読めるはず。確か新書一冊くらいの価格で日本でも買える。《新华词典》は、特にピンインを勉強し始めた人にとってはかなりオススメ。

(新華字典の日本語版)

この短編は陈凯歌によって映画化されてもいる。もっとも好きな中国映画の一つ。






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